東京高等裁判所 昭和35年(う)877号 判決 1960年10月11日
控訴人 被告人 東港金属株式会社 外一名
弁護人 橋本順
検察官 高田正美
主文
本件各控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人橋本順の提出した控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。
一、控訴趣意第一点について、
所論は、まず、原判決には次のような事実の誤認がある、と主張する。即ち原判決には、被告人が被告会社の業務に関し法人税を免れる目的で、簿外の在庫を順次架空仕入れに計上して表勘定に繰り入れ、その仕入代金相当額を簿外預金とする等の詐偽その他の不正行為によつて法人税を逋脱したものであると認定しているのであるが、右簿外在庫及び簿外預金を被告会社の所有に属するものと認定し、この前提に立つて右法人税逋脱の事実を認定したことは、重大な事実の誤認である。抑々被告会社は、現役員である福田庸一、山崎光一郎、鈴木唯二、福田純三、下田省吾らの各個人営業を統合し、各自の資産、手持商品を持ち寄つて被告会社を設立したものであるが、当時は法制上資本金二十万円以上の会社設立が困難であつたところから、右役員らが持ち寄つた資産、商品の内、会社資本金に充当した剰余の分はこれを会社の資産とせず、これを右各役員個人の共有財産として保有していたところ、昭和二十七年七月小林実が被告会社の経理事務を担当するに及んで、右個人共有の商品の管理も同人の所管に委ね、同人の責任においてこれを預金の形に転換したものである。右のように原判示の簿外在庫と称するものも、また簿外現金というものも本来被告会社の所有に属せず、役員個人の共有物であるところ、被告会社が現金仕入れの手形販売という特殊な問屋的業務を営む関係から、銀行信用を獲得する必要があつて、右役員一同の同意のもとに、前記役員個人共有の預金を被告会社の手形取引の裏付けとして流用したに過ぎない。右預金及び前記在庫が会社所有の資産であることを前提とした原判決には事実の誤認がある。と主張する。
よつて記録を精査し、原判決挙示の証拠及び当審における事実取り調べの結果を綜合すれば、被告会社が現役員である福田庸一、山崎光一郎、鈴木唯二、福田純三、下田省吾らの各個人営業を統合し、各自の資産、商品を持ち寄つて設立されたものであることはこれを認めることができるが、本件被告会社の簿外在庫及び簿外預金とされているものが、実は被告会社の所有に属しないで、右被告会社役員各個人の共有に属するものであるとの所論主張事実はこれを認めることができない。寧ろ前掲各証拠によれば被告会社はその営業の性質上取扱商品の市価に急激な変動のある場合、その事業経営が極めて困難となる場合があるので、このような非常事態に備えて簿外資産を保留しておくことを必要と考え逐次右簿外商品を蓄積してきたところ、昭和二十七年七月小林実が被告会社の経理を担当するに及んで、同人は右簿外商品をそのままにしておくことは経理処理上穏当でないと考え被告人その他被告会社役員の諒解を得て、右簿外在庫を順次被告会社が買い入れた如く架空仕入れの形式をとり右簿外在庫を消滅せしめその代金相当額を簿外預金として所有するに至つたものであることが認められる。この点について原判決には何等の事実誤認は認められない。
また所論は、原判決には事実の誤認か、若しくは理由不備または理由にくいちがいがある、と主張する。即ち原判決は、被告人は被告会社の業務に関し法人税を逋脱したと認定しているが、抑々法人税は法人の事業年度における所得、即ち当該事業年度の総益金から総損金を控除した金額に対し課せられるものである。再言すれば、事業年度における商品の販売等による収益から、事業経費及び損金を差し引いた利益が、課税の対象となるものであるところ、原判示の簿外の在庫を順次架空仕入れに計上して表勘定に繰り入れ、その仕入代金相当額を簿外現金とすること自体は、何等収益に関係するものではない。仮に原判示簿外在庫及び簿外預金が被告会社の資産に属するものであるとしても、これは同一店内において抽斗にある商品を陳列台に置きかえた場合と同一であつて、これにより被告会社の純資産が増加する筋合もなく、会社の収益と見るべきものも存在しないのであるから、これが課税の対象となるものではあり得ない。原判決が右簿外在庫を簿外預金とする方法をもつて法人税を逋脱したものと認定したことは事実誤認かまたは理由不備もしくは理由にくいちがいがあり、違法なものである、と主張するのである。
よつて勘案するのに、所論の如く、簿外在庫を架空仕入れに計上し、その代金相当額を簿外預金とすること自体は、商品の仕入れ及び販売による収益と同一視すべきものでないことは言うを俟たない。併しながら、被告会社は原判示の如く、千四百九万三千二百二十八円相当の簿外商品を被告会社が買い入れたことに架空仕入れの形をとり、その代金をもつて預金を設定し結局同事業年度には、七千二百九十四万円の定期預金と、九百十九万八千三百六十四円の普通預金を得たに拘らず、いずれもこれを裏勘定として公表せず、千二百二十万円の定期預金のみを公表して、確定申告をしたことが明瞭である。随つて右千四百九万三千二百二十八円の簿外在庫は棚卸商品の減少として負債の部に、また前記各預金はいずれも取得資産として資産の部に計上して、当該事業年度の所得額を明らかにすべきことは当然である。即ち右はすべて被告会社の当該事業年度の所得を構成すべきであり、所論の如く単に同一店内にある商品を抽斗より陳列台に置き換えた場合と同一に論ずべきものではない。この点の論旨は理由がない。
また所論は、原判決には理由不備若くは理由くいちがいの違法があると主張する。即ち原判決は、被告会社の本件事業年度の実際所得金額を千七百十七万八千四百三十九円と認定し、右所得内容の説明として、簿外在庫の期首における価格を推定計算し、これが期末に零となり、簿外預金が設定されたとしているのである。而して右簿外在庫の期首における価格が簿外預金額と同額であれば、含み利益がなく逋脱もない訳であるが、右簿外在庫の期首の価格が、簿外預金額以下であると推定し、その差額だけの含み利益があるとして、これを所得計算の基礎として、逋脱の事実を認定しているのであるが、元来法人税は、法人がその資産等を譲渡処分した場合その処分利益のある場合にこれを賦課すべきことが税法上の大原則である。時価の騰貴により資産の価額が如何に増加しても、このような含み利益は法人がこれを事実上利益として計上しない限りこれに対して課税すべきものではない。原判決が右の如き含み利益を被告会社の事業年度の所得計算の基礎となし、逋脱の事実を認定したことは理由不備若くは理由くいちがいの違法がある、と主張するのである。
併しながら被告会社は、既に認定した如く、簿外在庫を被告会社が買い入れたように架空の経理処理をして、前記定期預金及び普通預金を取得したに拘らず、すべてこれを裏勘定として右所得を秘匿することにより正規の法人税を逋脱したものである。所論の如く、資産の値上りによる含み利益を秘匿して税の逋脱をしたものとされているのではない。また、法人税は資産を譲渡処分した場合、その処分利益のある場合にのみ賦課さるべきものであるという所論は単なる独断であつて採用することはできない。原判決には所論のような理由不備ないし理由のくいちがいも存在しない。この点の論旨も理由がない。
また所論は、原判決は、簿外在庫を順次架空仕入れに計上し表勘定に繰り入れ、その仕入代金相当額を簿外預金とする方法により法人税を逋脱したと認定し逋脱税額の計算の基礎として、被告会社の実際所得金額を金千七百十七万八千四百三十九円と認定しているのであるが、右簿外在庫は簿外預金に転換する方法と、右被告会社の所得の発生との間には何等の因果関係がないのである。即ち本件簿外在庫スクラツプの期首の市中価格と、その期末における市中価格とを比較すれば、何らの値上りを見出すことができず、そこに法人の所得計算上益金に計上すべき評価益は存在しないのである。原判決が右簿外在庫を簿外預金に転換する方法により益金が生じたものとの前提に立つて、前記被告会社の所得金額を認定したのは独断であり許すべからざる違法がある、と主張するのである。
併しながら、記録及び原判決添付の諸表を検討すれば、被告会社が裏勘定に秘匿して公表しなかつた前記簿外商品千四百九万三千二百二十八円を資産の減少として負債の部に、簿外の定期預金七千二百九十四万及び簿外の普通預金九百十九万八千三百六十四円をいずれも所得資産として資産の部に計上し、その他、公表漏れとなつていた通知預金六十二万円の減少、損金計上都民税、役員賞与金、利益配当金、退職給与引当金否認認容、損金計上法人税、事業税認定損繰入、仮払法人税償却額等において被告会社の申告書に計上された数額を訂正増減した結果その集計により被告会社の当事業年度の総所得を千七百十七万八千四百三十九円(公表二百二十四万七千九百二十三円の外公表漏千四百九十三万五百十六円の当期利益金)と算出したことは明瞭である。簿外預金等と右被告会社の所得の発生の間に因果関係がないとする所論は理由がない。
二、控訴趣意第二点について、
所論は、原判決が、被告会社の実際所得金額を千七百十七万八千四百三十九円とし正規の法人税額と申告税額との差額五百九十七万二千二百円を逋脱したとの事実を認定したのは法令の解釈を誤り、理由不備、理由にくいちがいがある違法を犯したものである、と主張する。即ち右被告会社の実際所得金額は棚卸商品過年度金額を千四百九万三千二百二十八円と推定し、右推定価格から出発して右所得金額を確定したものである。固より右棚卸商品の期首における在庫価額を客観的に正確に認定することは不可能であり、これを推定価格によることはやむを得ないにしても、原判決の右推定価額の認定は経験則に反し、自由心証主義の適正な範囲を逸脱してなされたものである。即ち右棚卸商品の評価は、当該事業年度開始の日における当該商品取得のため通常要する価額、即ち昭和三十年七月一日現在において、右商品を通常仕入れをなす場合の市場価額をもつてするのが経験則上当然といわなければならない。而して右時期における市中価額は、銅屑三百五円、砂金屑二百四十円、真鍮屑二百十五円であつて、その平均単価は二百五十円となり、前記棚卸商品の期首在庫数量は原判示の如く八万四百四十瓩入であるから、右在庫価額は二千十一万二百円とすべきである。而してこの計算によれば被告会社の実際所得金額は八百九十一万三千五百四十四円であつて、その逋脱税額も三百五十六万五千四百円とすべきである。原判決が前記棚卸商品の推定価額の認定を誤り、引いて逋脱税額の認定を誤つたのは、法令の解釈の誤りに基く事実誤認若くは理由不備の違法がある、と主張するのである。
よつてこの点について、当裁判所は特に事実の取調べを行い記録によつて勘案するのに、所論棚卸商品の過年度金額の認定については、時価法、原価法及び単純平均法等の方法があるのであるが、税務慣行として、そのいずれの方法によつて棚卸商品の価格を算出すべきかは、予め業者が任意に決定し税務官庁に届出た一定の方法に従つてなすべきであつて、その時々の価格の状況に照して随意都合の良い方法を選択して右算定をすることを許さないこととなつており、被告会社においては、単純平均法によることに決定していたため、本件犯則事件調査の際、被告会社の経理担当の前記小林実は、担当係官の指示に基いて、被告会社の経理帳簿其の他必要な資料を基礎として、右単純平均法によつて前記棚卸商品の期首価格を算定し、その計算においても何らの誤認のないことが明認される。原判決が所論棚卸商品の過年度金額を千四百九万三千二百二十八円と確定し、被告会社の所得金額を千七百十七万八千四百三十九円と認定し五百九十七万二千二百円の逋脱税額を決定したことは正当であつて、原判決には所論の如き法令の解釈を誤りたる違法もなく、その他理由不備、理由のくいちがい等の違法も存しない。この点の論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 兼平慶之助 判事 足立進 判事 関谷六郎)
弁護人橋本順の控訴趣意
第一、原判決は事実誤認若くは理由不備又は理由にくいちがいがあるから破棄されねばならない
一、原判決はその理由において、「被告人は被告会社の業務に関し法人税を免れる目的で簿外の在庫を順次架空仕入に計上して表勘定に繰入れその仕入代金相当を簿外預金とする等の詐偽その他の不法行為により」とあるが右簿外在庫竝簿外預金と称するものが被告会社の所有に属するものと原判決が断定したのは誤りである。即被告会社は昭和二十二年十二月十七日資本金十八万円で設立せられた会社で当時現役員福田庸一、山崎光一郎、鈴木唯二、福田純三、下田省吾がいずれも個人経営中の事業を統合することに意見一致し各自の資産及商品を持ち寄つて前記のように会社設立に到つたものである。ところが当時の法制下では資本金二十万円以上の会社設立は困難であつたところから前記役員等の持寄つた資産が一方には会社資本の範囲における営業活動をなし他方これに併立して会社資本に属しないものとしての営業活動が行われて来たものである換言すれば被告会社の所有に属しない資産が前記役員兼株主である共同経営者の共有下に販売仕入等営業が行われてこれが増加して来たものであるこのことは被告人及鈴木唯二の大蔵事務官に対する各質問てん末書定款登記簿謄本により明白である。右鈴木のてん末書供述のように商品置場が役員山崎光一郎同鈴木唯二の住家の南側宅地を利用していたことは被告会社の所有に属しない在庫があつてそれが右両名の個人営業時代より引続きその侭になつていたことを物語る一例である。小林実の証言にあるように昭和二十七年七月同人が被告会社に入社した当時会社所有に属しない在庫品があつたことを認めているが同人の入社以後前述のような会計財産に属しない商品の販売は全く行われていないものであるそして小林入社当時の簿外在庫と称するものは被告会社の設立者であり株主兼役員であつた人々の前記のような共有物でありその持分が福田庸一五十五%福田純三十五%下田、山崎、鈴木各十%と定つていたものであることは被告人質問てん末書に記述されている。従つて小林入社当時に存在した簿外在庫と称するものは前述役員個人に返還されるべきものであつたが被告会社が現金仕入の手形販売と云う特殊な所謂問屋的業務を営んで居る為銀行信用を獲得する裏付の必要から各人にこれを返還するよりむしろ被告会社で買取り在庫商品となしその仕入代金を共同管理下に置きもつて銀行に対する手形割引の担保として被告会社の営業をよりよくせんとしたものである。しかも小林証人の供述のように同人が事実上被告会社の経理の責任者であつたところから前記役員等より右仕入代金を上記趣旨で管理することが一任せられてこれが預金の形になつたものである。右の次第であるから原判決に摘示の簿外の在庫品と称するものは被告会社の所有に属しないでかえつて前述のように株主兼役員の持分の定めある共有物であり簿外預金と称するものは右品代金の変形であるからこれも同じく共有物であつて被告会社が株主と役員が一体であり同志的結合であつたところから異議なく預金が被告会社運営の裏付として流用されていたのに過ぎなくたまたま裏付の効果をあげるべく小林実が事実上の経理責任者故に同人の下に管理せられていたからと云つて同一の人格内で仕入の観念が成立しないことによつても原判決のように簿外在庫簿外預金が直ちに被告会社所有と断定したことは許すべからざるものがある。以上の点で原判決は事実誤認若くは理由不備若くは理由にくいちがいがあるから破棄されねばならない。
二、原判決はその理由において「被告人は被告会社の業務に関し法人税を免れる目的で……逋脱したもの」と認定したのは不法も甚しい法人税法第四八条に所謂納付すべき法人税は同法第八条により事業年度の所得に対し課税されるものであり右所得とは同法第九条により事業年度の総益金から総損金を控除した金額によることになつている法人の所得は商品の売買その他の営利を目的とする行為によつて純資産の増加を来たしたときにあるべきで益金とは商品の売買に因る収入商品の製造販売に因る収入貸金の利子雑収入等の積極財産の増加を来たす事実は勿論債務免除又は時効等の消極財産の減少を来たす事実を含むもので損金とは商品販売に要した費用及び原価、支払、利息、債権の貸倒れ等純財産の減少を来たす事実である。換言すれば利益とは何かが頗る重要な意義をもつところ一般的には収益から損失と費用の合計額を差引いた残額であり企業に対する投下資本の回収維持を超える部分である「簿外の在庫を順次架空仕入に計上して表勘定に繰入れその仕入代金相当額を簿外預金とする」こと自体は何等収益に関係するものでない即売上利益でもこれ以外の受入手数料等営業上の利益でなく又利子等の金融益若くは営業外の臨時的な利益にも関係しないから商業上の所得が発生しないものである。かりに簿外在庫簿外預金がいずれも被告会社のものであるとすれば本件の如き行為は右にあるものを左におき反対に左にあるものを右においたようなもので同一人格内で在庫を現金で評価したと云うに過ぎないから積極財産の増加は存在しない例えば店内で抽斗の内に品物のあつたのをみとめこれを陳列台に置き他方これに相当する仕入代金をレジスターから取立し右抽斗に入れた場合何等この店に純資産の増加をみとめるべきものはないから従つて課税対象と考えるべきものが存在しないことは明瞭で原判決摘示の簿外預金にすることも右の譬と同様に利益の計算をこれから算出することは無理であるから被告人が法人税を免れる目的で簿外在庫を簿外預金にする方法で本件逋脱をなしたと認定することは事実誤認若くは理由不備又は理由にくいちがいがあると云うべきである。
三、原判決がその理由において「被告会社の実際所得金額が金千七百十七万八千四百三十九円であつたのにかかわらず」と認定したのは事実誤認も甚しいものであるこれは観念的資産が増加すれば利益が生じ減少すれば損金が生ずると云う立場を固執した不法がある法人の所有資産の価額に因つて増加しその下落に因つて減少するから右の資産の時価の騰落による損益もその性質上益金又は損金となるとしても実際問題として法人の所得を計算する場合に期末における法人の全資産の時価を調査し前期の時価と比較することは容易でない又かゝる場合法人が損益として計算しないものを税務官庁が進んで損金又は益金とすることはその損益が未だ現金化されていないものである点で性質上妥当でないことは明白である。従つて税務の計算では時価の騰貴により資産価額が増加し如何に多額の含み利益が生じても法人が利益として計上しない限りこれに対して課税しないそしてこの含み利益はその資産を譲渡等の処分したときに処分利益となつて現れるからこの時に課税されるのであるところで本件については簿外在庫を表勘定に繰入れたとしてもこれを被告会社が譲渡等の処分をしないのであるから処分利益として現れないものである元来かかる処分利益に対し課税されるのが税法上の大原則であるところで本件についてはこれに反し前記のような含み利益を推定計上しこれを所得として課税を脱れたと認定したものである原判決逋脱所得内容説明書が判示するごとく棚卸商品欄に期首の簿外在庫価格を推定計算しこれが期末に零となり簿外預金が設立せられたとしている従つて期首の簿外在庫を如何なる価額で評価するかにより換言すれば期首の評価が簿外預金相当額であれば含み利益がなく従つて逋脱がなくこれ以下であれば含み利益がある筈だからこれに対し法人税を納付すべきでこれが処置を採らなかつたから本件犯罪を成立すると考えることは被告会社が利益として考えていないもの税務官庁が利益として計上し課税した違法があり原判決がこの見地において事実認定したのは理由不備又は理由にくいちがいがあるからこの点で破棄されねばならない。
四、原判決は「簿外在庫を順次架空仕入に計上し表勘定に繰入れその仕入代金相当額を簿外預金とする」方法と「被告会社の実際所得金額が金千七百十七万八千四百三十九円であつた」との点に因果関係ないのにかかる方法と所得の発生とを無理にこじつけた違法がある即ち簿外在庫の評価額と簿外預金額が等価額であれば計算上異動はないからである原判決が所得を認定した限り被告会社に益金があることになるが前記方法で如何なる益金が発生するか疑問である法人税法第二章課税標準及び税額控除同法施行規則第二章の条項によるも本件益金に該当する条項が存在しない仮りに施行規則第十七条の評価益をして解する場合はその評価換をなした日に属する事業年度終了の日における当該資産の価額をこえるときはその評価換に因る益金のうちそのこえる金額に相当する金額はこれを益金に算入しないことになつているところで本件簿外在庫スクラツプの期首の市中価額と期末の市中価額とを比較すると(弁護側提出非鉄スクラツプ読本一七一頁参照)値上りを見出すことが出来ないからこの点においても法人の所得計算上益金に算入すべき評価益は存在しなくなる。右の次第で原判決の所得認定の方法に独断があり許すべからざるものがあるからこの点で破棄されねばならない。
第二、原判決はその理由において被告会社の実際所得金額が金一七、一七八、四三九円となし以て正規法人税額につき申告税額の差額金五、九七二、二〇〇円を逋脱した旨認定したのは法令の解釈を誤り理由不備理由にくいちがいがあるからこの点で破棄されねばならない。
一、原判決はその理由で「被告会社の実際所得金額が金千七百十七万八千四百三十九円であつたのにかかわらず」となし本件逋脱税額を認定したのは不当である。前記所得の計算においては修正貸借対照表資産の部勘定科目十一冊卸商品過年度金額一四、〇九三、二二八円が大なる要素を占めているこの金額は逋脱所得税内容説明書中棚卸商品欄において説明のように推定計算により期首の簿外棚卸商品の在庫価格を推定したものであるかかる推定価額から出発して判示のような実際所得を確定することは不可能である推定より生じた結果はあくまで推定であり従つて判示のような実際所得金額も推定であり当然逋脱税額も推定となる。右のように重大なる要素の価額が推定以外に方法がないのに原判示の如く差額金五百九十七万二千二百円の税額を逋脱したと確定したことは法令の解釈を誤り経験法則採証法則に違反し自由心証主義を逸脱したものであるからこの点で破棄されねばならない。
二、仮りに原判決摘示のような推定が許されるとすれば簿外在庫の価額を金一四、〇九三、二二八円を認定することは不当であり他にも推定する方法がある本件の場合期首簿外在庫の評価について如何なる方法によるのが妥当であるか確立したものはないところで期首の在庫の評価であるから当該棚卸資産の当該事業年度開始の日におけるその取得のため通常要する価額をもつて当該棚卸資産の評価額とするのが妥当である換言すれば昭和三十年七月一日現在において本件簿外在庫について通常仕入をなす場合の市場価額をもつてすることである即ち本件逋脱行為は昭和三十年七月一日より同三十一年六月三十日迄の事業年度の所得を焦点にしているのであるから期首の評価を右のような方法を採るのが正当であるそして簿外在庫と同一商品の昭和三十年七月一日現在の瓩当り市中価額は次の通りである。銅屑 三〇五円、砂金屑 二四〇円、真鍮屑 二一五円、このことは押収に係る昭和三十四年一五四二号の五仕入帳四冊の内前記日時の仕入価額を参照すれば明確になる従つて右屑の平均単価は二五〇円となり逋脱所得内容説明書中記載のように期首推定簿外在庫数量は八〇、四四〇瓩入とあるからこれに右平均単価を加乗すれば簿外在庫価額二〇、一一〇、二〇〇円となる。従つて修正貸借対照表勘定科目十一冊卸商品の過年度金額欄は金一四、〇九三、二二八円ではなく金二〇、一一〇、二〇〇円が正当で故に右勘定科目五〇当期利益金負債の部当期増減金額の欄金一四、九三〇、五一六円とあるは八、九一三、五四四円とすべきである。よつて判示の如き実際所得金額は右のように金八、九一三、五四四円と訂正すべきでありその逋脱した法人税の差額金も金三、五六五、四〇〇円と訂正するのが理の当然である。以上のように簿外在庫の評価方法に唯一絶体のものがなく他方推定による以外に手段がなければ刑訴法の精神に則り被告人の利益の為前述のように解するのが正義公平に合致するものと考える。右の次第で判示所得金額逋脱税額につき法令の解釈を誤り事実誤認若くは理由不備又は理由にくいちがいがあるからこの点で原判決は破棄されるべきである。
(その他の控訴趣意は省略する。)